※一部映画のネタバレありです。これから見ようと思っている方はご注意ください。
※不快感を覚える方がいらっしゃるかもしれない表現があります。苦手な方はご注意ください。

先日、ドキュメンタリー映画:ムクウェゲを観に行ってきました。
以前から気になっていた作品で、私の住んでいる地域での公開を待ち望んでいたのですが、先日ついに公開。さっそく観に行って来ました。
コンゴで何が起こっているのか。被害者へのインタビューだけでなく、加害者へのインタビューも行われています。
想像通りというか想像以上というか、とても考えさせられる内容でしたので、コンゴで何が起こっているのか、そして私の今の思いを綴らせていただこうと思います。
参考・参照
ムクウェゲ「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師 公式HPーhttp://mukwege-movie.arc-films.co.jp/#modal
原貫太・フリーランス国際協力師 YouTubeチャンネルーhttps://www.youtube.com/channel/UCLubQ17jEPLmYmfQ0KW7dGA
世界史の窓ーhttp://www.y-history.net/
世界の歴史まっぷーhttps://sekainorekisi.com/
外務省ホームページーhttps://www.mofa.go.jp/mofaj/index.html
Global News View-https://globalnewsview.org/
JICAーhttps://www.jica.go.jp/index.html
世界の医療団ーhttps://www.mdm.or.jp/
朝日新聞デジタル(ノーベル平和賞公演全文掲載記事)ーhttps://www.asahi.com/?iref=pc_gnavi
コンゴ民主共和国の概要

ふたつのコンゴ
まずはこのドキュメンタリー映画の舞台であるコンゴ民主共和国という国についてです。
みなさんは、コンゴと名のつく国が2つあるということをご存知でしょうか。
どちらも中部アフリカに位置する国で、隣り合っている国です。下記の地図を見ていただけると位置関係がわかりやすいかなと思います。
コンゴ共和国
コンゴ民主共和国
この2つの国は、元々はコンゴ王国という1つの王国でしたが、15世紀頃からのポルトガルによる植民地支配、更にその後のベルリン会議(1884年〜1885年)により、現在のコンゴ共和国はフランス領に、現在のコンゴ民主共和国はベルギー領へと分割統治されることとなりました。
今回の映画の舞台となっているのはコンゴ民主共和国です。
以下、表記をコンゴとさせていただく国はコンゴ民主共和国を指しています。
〜ベルリン会議〜 ベルリン=コンゴ会議とも呼ばれる。 1884~5年、ビスマルクが主催した、アフリカ分割に関するヨーロッパ列強による国際会議。アフリカ分割の調停及び植民地化の原則が取り決められた。
コンゴ民主共和国
基礎情報
コンゴ民主共和国〜Democratic Republic of the Congo〜
面積 | 234.5万平方キロメートル |
人口 | 8,956万人(2020年、世銀) |
首都 | キンシャサ |
民族 | 部族の数は200以上、大部分がバントゥー系 |
言語 | フランス語(公用語)、スワヒリ語、リンガラ語、チルバ語、キコンゴ語等 |
宗教 | キリスト教(80%)、イスラム教(10%)、その他伝統宗教(10%) |
コンゴ民主共和国の大まかな歴史
1885年のベルリン会議以降、コンゴはベルギー領であるコンゴ自由国として植民地支配をされてきました。
しかし、”国”と表されているものの、その実態はベルギー王国レオポルド2世による私有地支配であり、現地住民は象牙やゴム、土地などを残虐な方法で搾取されていました。
そのような体制が国際的な非難を受け、1908年にはベルギー政府直轄のベルギー領コンゴへと形を変えました。
その後、他のアフリカ諸国と同じように独立運動が始まり、1960年にベルギーからコンゴ共和国として独立を達成しました。
しかし、南部カタンガ州の分離運動からコンゴ動乱へと突入し、5年にわたる内戦が続きました。
その後1965年のクーデターによりモブツ政権が成立し、1971年にはザイール共和国へと国名を変更しました。
しかし長期政権の中で腐敗が進行し、更には人権抑圧も続いたため再び内戦となり、1997年にはルワンダやウガンダなどの支援を受けたカビラ政権が成立、国名をコンゴ民主共和国へと変更しました。(第一次コンゴ紛争)
しかしこの政権に不満を持ったルワンダは反政府勢力を組織し、コンゴに侵攻します。(第二次コンゴ紛争)その後カビラ大統領は2001年に暗殺され、その子ジョゼフが大統領となります。
2002年にはようやくルワンダとの間でプレトリア包括和平合意が結ばれましたが、いまだに豊富な鉱物資源の採掘権や民族間の問題も絡み、武力紛争が続いています。
特にコンゴ東部は治安が悪く、数多くの武装勢力が乱立しており、今もなお住民への暴力が続いています。
コンゴ民主共和国に興味を持ったきっかけ〜原貫太さんとの出会い〜

私がコンゴ民主共和国に興味を持ったきっかけは、フリーランス国際協力師・原貫太さんのYouTubeチャンネルを観たことでした。
原さんのYouTubeチャンネル
原さんのブログ

今までアフリカの国々に深い興味を持たずに生きてきた私でしたが、原さんの動画を観ていくうちに、アフリカの国々では現在でも様々な問題が起こっていることを知りました。
アフリカの国といえば、”貧困”というイメージはあったのですが、それは何が原因なのか、考えることもしてきませんでした。
完全に、”遠いどこかの国で起こっている出来事”だったのです。
しかし、原さんの動画を観たり、それに関する本を読んでみたり、ネットで調べてみたり。
そうすればするほど、アフリカの国々で起きている問題は私たちに一切無関係では無いということを知りました。
そして、今もなお紛争や性暴力が頻発する国、そしてそれが引き起こされている背景に私たちの国が関わっている国、その一つがコンゴ民主共和国だったのです。
ムクウェゲ〜「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師〜

コンゴ東部の性暴力
コンゴ民主共和国ーブカブ
女性にとって世界最悪の場所
映画のタイトルにもあるように、そんな呼び方をされるコンゴ東部地域。その中のブカブという地域がこの映画の舞台です。
ここでは、20年以上に渡り、40万人を超える女性がレイプの被害を受け続けています。
多くの被害者は女性ですが、男性が被害者となるケースも少なからずあるそうです。
そして、その加害者はコンゴ東部の武装勢力です。
デニ・ムクウェゲという医師
今も続くコンゴ東部での性暴力。その被害にあった女性たちの多くを無償で治療してきたのが、このドキュメンタリー映画のメインパーソンであり、タイトルにもなっている婦人科医、デニ・ムクウェゲさんです。
婦人科医であり、人権活動家として活動されています。
彼は1955年、コンゴ民主共和国の東部ブカブで、牧師である父親の元に生まれました。
8歳の時に、「父が祈る人なら、僕は白衣を着て薬を配る人になる」と医師になることを心に決められたそうです。
その後1999年にブカブにパンジ病院を設立、2002年に正式に開業します。このパンジ病院がこの映画の中心の舞台です。
その際に、コンゴ東部で性暴力が蔓延していることを知ったそうです。
その後婦人科医として活動していく中で、診療所が襲撃を受けるなど、危険な場面にも遭遇して行きます。
そして、活動の中で「その根源を断ち切らない限り、コンゴの女性たちに平和は訪れない」と気づき、国際社会に向けて、コンゴで起きている組織的性暴力について訴え始めました。
その後は婦人科医として活動を続けると共に、人権活動家としても活動。
様々な人権に関する賞を受賞し、2018年にはノーベル平和賞を受賞しました。
国際社会にむけた活動が評価されると同時に、常に命を狙われる状況にもおかれています。そのため、現在もパンジ病院の中で家族と暮らし、国連平和維持活動(PKO)部隊の保護下にある状況です。
ムクウェゲ医師の見た悲惨な性暴力
この映画の中で語られたムクウェゲさんの対応した性暴力の被害者の方々。
その内容は”悲惨”そのものでした。
彼のパンジ病院には、肉体的、精神的な傷を負った女性たちが運び込まれてきます。年間で2500~3000人。
最初に診た患者はレイプの被害者で、彼女は性器を撃たれていました。
彼が治療した被害者の中には、生後6ヶ月の赤ちゃんもいました。
ある日には、3歳の女の子が病院に運ばれてきます。性器は完全に破壊され、腸が飛び出ていました。
レイプの被害に遭い妊娠。その後再度のレイプに遭い、まだ見ぬ我が子を殺された女性。
家族全員を殺され、5年にも渡り武装勢力に囚われレイプされ続けた女性。
レイプの被害に遭い、更にはそれを理由に夫にも見放された女性。
大きな数字からは見ることのできない、様々な悲痛な叫びがそこにはあります。
体の傷はもちろん、彼女たちの精神的な苦痛は私には想像のしようもありません。
そんな女性たちを、ムクウェゲさんは今日も救い続けています。
なぜ残虐なレイプなのか
なぜ残虐な性暴力という形が取られるのか。
性的欲求を満たすため?それも一端でしょう。
しかし、欲求を満たすためであるのならば、敢えて性器を破壊するような残虐なやり方をとったり、更には殺したりするようなことは必要ないのです。乳児から高齢者までを対象にしなくても良いのです。敢えて家族の前で残虐な行為に及ぶ必要はないのです。
では、加害者はなぜこのような方法を取るのか。
それは、恐怖心を与えてコミュニティーを支配することが目的だからです。
レイプは、その家族・コミュニティーを破壊します。人々は恐怖心を植え付けられ、やむを得ず武装勢力に従うことになります。
さらには被害にあった女性は差別され、そのコミュニティーだけでなく家族からも見捨てられる現実もあります。
組織的な性暴力。
人々の絆を壊し、恐怖で支配する。
そんな身勝手な目的のために、心も体もボロボロにされた被害者たちが生まれているのです。
武装勢力が人々を支配する理由〜コンゴ民主共和国の鉱山・レアメタル問題〜
私はデニ・ムクウェゲです。この星で最も豊かな国のひとつから来ました。しかし、私の国の人々は、世界で最も貧しいのです。
デニ・ムクウェゲ医師 2018年ノーベル平和賞受賞スピーチより
ムクウェゲさんが2018年に受賞したノーベル平和賞のスピーチで述べられた言葉です。
アフリカ大陸で2番目に大きく、日本の約6倍の面積を持ち、天然資源が豊富に産出されるコンゴ。
コンゴは希少金属、いわゆるレアメタルと呼ばれるコバルトやタンタルの生産量が世界一であり、他にも銅、ダイヤモンド及びスズ等の鉱物資源に恵まれています。
そして、コンゴの輸出品の9割は石油と鉱物資源が占めています。
広大な森林と豊かな水資源にも恵まれています。
コバルト・タンタルとは? ノートパソコンやスマートフォンなどの電子機器製品に使用されるレアメタルの一種。 コバルト・タンタルの生産量はコンゴが世界一位。
天然資源が豊富な国、コンゴ。それにも関わらず、コンゴは世界で最も貧しい国の一つです。
その豊かな天然資源と反して、人口の73%が1日を1.9ドル、日本円で約200円以下で生活する、絶対的貧困の状態にあります。
なぜ天然資源が豊富なのにも関わらず、コンゴの国民の大多数は貧しい生活を強いられているのか。
こちらの原さんの動画でも詳しく解説されていますが、そこには天然資源が豊富であればあるほど、貧困の深刻化や経済成長の遅さといった問題につながるという“資源の呪い”があります。
ぜひ動画をご覧ください。
“資源の呪い”に加え、1994年にルワンダで起こった、100日間で50万人以上(80万人、100万人以上ともされる)が虐殺される民族大虐殺、いわゆるジェノサイドが起こったことも要因の一つです。
ルワンダはコンゴと国境を接しており、ルワンダで起こったジェノサイドがコンゴに飛び火し、コンゴでの紛争が始まることとなります。
ルワンダのジェノサイドの影響で、ルワンダの隣国には多数の難民が逃れてくることになりました。その国の1つがコンゴ、東部地域です。
そして、その難民の中には、虐殺を主導した兵士や民兵が紛れ込んでいたのです。彼らは、難民が住んでいたキャンプを軍事化していきます。これに対するルワンダの反政府組織掃討作戦の結果、第一次コンゴ紛争、第二次コンゴ紛争が勃発し、周辺国を巻き込みながら“アフリカの世界大戦”と呼ばれるほど大規模な紛争に発展していきます。
2002年には和平合意が締結され、公式には紛争は終結したとされていますが、実際にはその後もコンゴ東部では様々な武装勢力が乱立し、武力闘争が起こっています。
更には治安の悪さ、法律が遵守されていないといった問題から、本来は住民を守るべき立場にある軍や警察までもが人々を襲ったり略奪をしたり、人権侵害を行ったりしています。
そして、この武装勢力や軍が資金源としているのが、コンゴ東部で採掘される豊富な鉱物資源なのです。
彼らは鉱物資源により採掘活動や流通などを牛耳ることにより不当な利益を得る一方で、その周辺地域を武力により支配しています。
その支配の方法の一つであるのが今回の映画での主題である、性暴力なのです。
日本も無関係ではないースマートフォンやパソコンに使われるレアメタル

遠いアフリカの国で起こっている出来事。
物理的距離があることも相まって、かわいそうではあるけれども、自分達には関係のない国で起こっている出来事だ。そう考えてしまうことも仕方のないことです。
私たちは平和な日本で暮らし、必要最低限度の生活を保障されています。
そんな私たちにとって、アフリカの国々が抱える問題は、どこか物語の中の出来事のように感じられるかもしれません。
しかし、今、私たちが手にしているスマートフォンに、当たり前のように使っているパソコンに、日常的に使っている電子機器に、最先端技術に、そこに使われているものが、レアメタルなのです。
そして、そのレアメタルはどこからやってきているのか?
もしかしたら、今あなたの手の中にあるスマートフォンは、コンゴの女性達の犠牲の上に作られたものかもしれません。
もちろん、全てのレアメタルがコンゴからやってきているわけではありません。
しかし、コンゴに鉱物資源が豊富に眠っていることもまた事実です。
そう考えると、コンゴで起こっている問題は、決して私達と無関係ではないのです。
私たちにできることは

レアメタルのリサイクルも行われている
レアメタルが使用された製品。
その製品を使い終えた後、あなたはどうしていますか?
家庭ゴミとして処分してしまう方が多いかもしれません。
しかし、製品に使われたレアメタルを取り出し、再利用する取組も広がっています。
ぜひ、ご自分の自治体や各企業はどのような回収方法をとっているのか、家電等を処分する際には調べてみてはいかがでしょうか。
そして、適切な処分方法をとること。
特に資源の少ない国、“日本”で暮らす私達。限りある資源を有効に活用していくための一歩ではないでしょうか。
何よりも知っていくこと、目を逸らさないこと
インターネットが普及した現代。
遠くの国で起こっている出来事だとしても、それを知らなかったと言って無視できるほど、私達の住んでいる世界は狭くはありません。
知ろうとすればすぐにでも、情報を得られる現代社会。
世界で起こっている問題は、もちろんコンゴのものが全てではありません。
私達が平和に暮らしている間にも、世界には苦しい思いをしている人々がたくさんいます。飢餓、紛争、難民問題、民族問題。
では、私達には何ができるのか。
募金をする?現地で活動するNGOに参加する?
もちろんそれらも一つの答えでしょう。
しかし実際に自分が何ができるのか考えた時に、いまいちしっくり来る答えは出ません。
現地で活動して下さっている方々をサポートするためにも、募金はもちろんしていきたいと考えています。
でも、私にできることはそれだけなのか?
はっきりとした答えは出ませんが、しかし、
知っていくこと。目を逸らさないこと。伝えていくこと。
これらのことは私にもできることだと思うのです。
これがどのような力を持つかわかりませんし、無力感は拭えません。
しかし、知っていくことが、学んでいくことが、世界をかえることに少しでも繋がっていってくれれば。
世界を知ることは、決して無意味ではないと私は思います。
知った人が増えることで、世界は少しでも良い方向に向かっていくのではないのかと。
私はこれからも、世界で起こっていることを知ること、そしてその背景、歴史を知ること。
これらを意識的に行なっていきたいと思っています。
映画・書籍
まだこの映画を見たことがないという方は、ぜひ、コンゴという国を知るきっかけにするためにも、鑑賞していただきたいと思います。
衝撃的な内容ですし、観るのがきついものであるのも確かです。
価値観をガラリと変えてしまうかもしれません。
でも、知っていただきたいのです。
こちらは予告編の動画です。興味を持たれた方はぜひ。
こちらは先ほども紹介した原貫太さんの書籍です。
この書籍の中でも、コンゴ紛争とスマートフォンの繋がりを解説されています。
それだけでなく、他にも、世界で起きている不都合な真実について分かりやすく書かれていますので、ぜひ手に取ってみて下さい。
利他

利他、リタ。
日常的に使う言葉ではないかもしれませんが、ムクウェゲさんが好きな日本で出会った言葉だそうです。
他人に利益を与えること、他人に尽くすこと。
他人のことを、自分の事として考える。
日本語にはこんな素晴らしい言葉があるのです。
利他の精神を皆が持つこと。
それが世界平和へ繋がっていくのだと、私は思います。
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